大阪高等裁判所 昭和53年(ネ)972号・昭53年(ネ)1034号 判決
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【判旨】
二第一審被告阿部、同繁保の公序良俗違反の主張について判断する。
およそクラブ経営者に対し顧客が負担する掛売飲食代金債務について、クラブのホステスがその経営者に対し右顧客と連帯して支払の責任を負う旨約束する契約ないし責任約款は、一般的には民法上の連帯保証契約であるが、ホステスを指名する指名客またはこれに類する客の掛売飲食については、保証人たるホステスとしては遊興飲食の接待をする限度で関与するにすぎず、ホステスの意思に関係なく指名客や経営者の意思によつて決定され、またその代金債務は、本来経営者の危険と責任において経営者が取立て回収すべきであるのに、これを回避してその代金債務の責任をホステスに負担させることは、経営者がその優越的地位を利用してホステスに苛酷な責任を負担させることになる反面、ホステスに代金回収の危険を負担させることにより労せずして飲食代金の回収をはかることができ、かつ、顧客の飲食代金の回収困難または不能な場合にはホステスに退店・転職の自由を実質上制約することにもなり、このような契約は、その目的や結果において著しく不当であり、反社会性を帯有するものとして公序良俗に反し、無効であると解すべきである。これを本件についてみるに、前示引用の原判決挙示の証拠、とくに<証拠>を綜合すると、①第一審原告は、ホステスとして勤務していた第一審被告阿部を前店であるクラブ「輝扇」同「幸楽」(経営者同一人)(以下、前店クラブという)から引抜き、自店のクラブ「ボナール」にホステスとして勤務させるため、前店クラブが前店クラブに対する顧客の未収売掛飲食代金債務を同クラブのホステスである同被告に負担させる契約に基づく債務金二八〇万円を、前店クラブに対して立替払し、第一審原告と同被告との間においてはこれを消費貸借の目的とする旨の準消費貸借契約を締結したこと、②第一審原告は同被告を前店クラブより引抜き、クラブ「ボナール」にホステスとして勤務させるに際し、同クラブの顧客の将来生ずべき未収売掛飲食代金債務を同顧客と連帯して同被告に負担保証させる旨の契約をし、その未収売掛飲食代金が金九〇万四、四六〇円に及んだこと、③さらに第一審原告は、右雇人れに際し同被告との間に同被告が退職する場合には事由の如何を問わず、指名客の未収売掛代金債務その他一切の債務を清算しなければならない旨の契約を締結したこと、④前店クラブとクラブ「ボナール」とは、固定給・歩合給等の給与は、ほぼ同様であつたが、前店クラブは店が幾分狭く閉店の噂も出ており、クラブ「ボナール」の方がやや勤務の雰囲気が良い程度にすぎなかつたことが認められ、右認定を左右するに足る的確な証拠がない。
以上認定の事実によれば、第一審原告の本件未収売掛金を主債務者とともに、第一審被告阿部が負担し支払う旨の契約、及び前店クラブの本件未収売掛金を主債務者とともに同被告も負担し支払う旨の契約は、いずれも連帯保証契約であるが、その契約内容は反社会性を帯有していて、公序良俗に反し無効であるというべきであり、(第一審原告の前店クラブに対する立替払の返還請求の点は別論として)、同被告に対する関係では無効な契約に基づく旧債務を前提とする準消費貸借契約も、その効力を生じないものというべきである。
(村上博巳 坂上弘 吉川義春)